木目込み人形『羽衣』

この「羽衣人形」の羽衣とは、天女が着て、自由に空を飛べるという衣です。

能の作品「羽衣」は駿河の国、三保の松原が舞台です。

いつものように浜辺にやってきた漁師の男が、美しい音楽が聞こえ、よい香りがしてくるので、辺りを見回すと、松の木に世にも美しい衣がかかっていました。

あまりにも美しいのでそれを男は家宝にしようと、家に持ち帰ろうとします。

そのとき一人の天女が現れ、その衣は自分の羽衣で、それがないと天へ帰ることができないので、返してほしいと頼んできました。

それを聞いて漁師はますますその羽衣を家宝にしたくなりますが、天女がかわいそうになったので、羽衣を返すかわりに、天上の舞を見せてくれと頼みました。

こうして天女は三保の松原のすばらしい景色の中、天上の舞を舞い、そして天へ帰っていきました。

これが、能作品「羽衣」のあらすじです。

三保の松原は、平安時代から景勝地として知られ、緑の松がはえている白い美しい浜辺からは富士山を見ることができます。

能の羽衣の衣装は、腰巻を巻き、その上に長絹という上着をかぶり、扇子を持って、頭には天冠という冠をかぶり、お面をつけます。

この能はとてもいい話ですよね。
男は羽衣を返してあげるし、天女はそのかわりに舞を踊るというとても素敵な話です。

羽衣伝説って知っていますか。

羽衣伝説とは、日本や朝鮮半島などアジア各地に存在する伝説です。
最も有名なのが、この三保の松原に伝わる羽衣伝説です。

湖に7羽の白鳥が下りてきて水浴びし、天女の姿を現します。
その美しさに心を奪われた男が、天女を天に返したくなくて、その羽衣を隠してしまいます。
そのためひとりの天女が空に飛び立つことができず、天に帰れなくなってしまいます。

天に帰れなくなった天女はその男と結婚し子供をもうけます。
しかし、天女は男が隠してあった羽衣をついに見つけてしまい、天上へと帰ってしまうのでした。

これが、基本的な羽衣伝説のストーリーですが、場所によって結末はかなり違うものになっています。

例えば、京都府峰山町の羽衣伝説は、男が帰ってしまった天女からもらった夕顔の種をまいて、そのつるが天までのびていき、つるをよじ登った男が再び天女に会うことができます。

天女は男に、一度も天女のことを思い出さずに天の川に橋をかけたら、再び一緒に暮らすことができるといいます。

男は天の川に頑張って橋をつくりますが、七月七日が近づいたある日、もうすぐ天女に会うことができるなあ、と、つい天女のことを考えてしまいました。

すると天の川は急に水であふれ、洪水となり、男を橋もろとも下界へと流してしまいました。

その後男は山の上から天上を眺めていました。
天の川はすっかり静かになり輝いていましたが、二人が会うことはもうなかったようです。

このように七夕伝説が少しまじっている地域もあるようです。

もうすぐ七夕ですが、きれいに晴れて天の川が良く見えるといいですね。